2010年11月25日

海の中から生体学

海はヒトのロマンでもあり、まだまだわからないことがたくさんある。
なんだかNHK特集のような始まりですが、とってもおもしろい話を、仕入れたので紹介します。

★海洋を研究する研究所がある

日本には海を研究する巨大な研究機構があるのをご存じでしょうか?
「海洋研究開発機構」と呼ばれる研究所です↓
http://www.jamstec.go.jp

ここはとにかく海に関するいろいろなことをやっていて、よく知られているのは南極観測隊です。南極に向かう船は海洋機構の船なのです。

この研究機構が実は今、熱いのです。
なぜか?

★掘削船「ちきゅう」

「ちきゅう」と呼ばれる超巨大な海底掘削船を世界でも唯一、日本だけが持っています。
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/
この掘削船というのは、海底から直径10cmくらいのコアと呼ばれる海底の土壌を3000m近く掘り出す道具を搭載しています。

船上にはCTスキャナがあり、コアをデータ化することができる、というのが世界でも類をみない、日本が誇る船なのです。

何がわかるのでしょうか?

★TSUNAMI被害は防げた!

数年前にスマトラ島沖で地震が発生し、多くの人命が失われたのを記憶されている方も多いと思います。
じつは、日本はこの地震が発生するのを「ちきゅう」で予見していました。つまり、海底を掘削し、数千年規模の堆積物の断層を海底に発見していたのです。

インドネシア政府にも津波警報機や堤防をつくるよう呼びかけましたが断られたそうです。そんな中発生したのがあの津波で、そのあと「ちきゅう」が注目されるようになりました。

★海底からはいろいろ出てくる:生体の科学も

海底の土壌というのは、人の手はもちろん届きませんし、風化の影響もなくとっても純度高い状態で保存されているため、地球46億年がそのまま保存されているようなものなのです。
そこで、いろいろ掘っていると、いろいろ出てくるわけです。

場所によっては、恐竜の骨がとても純度の高い状態で出てくるわけです。そこには純度の高い骨髄も含まれていることがあり、それを取り出しゲノムを解析し・・・
まさにジュラシックパークです。そんな研究を本気やっている人たちがいます。

骨は恐竜だけではありません。偶然、アウストラロピテクスの骨髄に当たったりするわけです。
これも同様に、骨髄から遺伝子情報を取り出し、学習能力の推定や、人類の起源を探るきっかけとなるわけです。

このブログの趣旨にここでつながるわけですが、ヒトの進化を予測するしゅだんとして、このような「海洋人類学」と呼ばれる方向も存在することを知っていると、骨格の変化などにも応用できるのではないかと思います。

★海洋研究はこれから

じつは海洋研究は最近いろいろ始まった感じがあり、これからの分野でもあるいわれています。
「ちきゅう」がまずは研究者のビジョンを変えてくれました。あらたなチャレンジ分野が出てきています。

人体の研究は、ヒトの起源でもある、海から発見されるかもしれません。
とってもロマンのある話だったので紹介させていただきました。

やまぎわ
posted by fifss at 04:01| Comment(0) | 海洋人類学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

スパコンって必要だと思いません? スパコンって必要だと思いません?

★「世界一じゃなきゃいけないんですか?」
とかいわれて取りざたされたスパコン。
スパコンという言葉が流行語にならなかったのが残念なくらいみんな知るようになりましたね。
JSTのCRESTの研究領域でもスパコンのネタが持ち上がるくらいで、この戦略テーマは閣議決定されています↓
http://www.senryaku.jst.go.jp/teian/koubo/04-ch2202.html

でも、スパコンって何に使われているか知ってますか?
だいたい、スパコン自体、ナニモノかわかりませんよね?その一端をよい機会なのでご紹介したく思います。

よい機会ですから、必要なのか、不必要なのか考えてみてください。あなたの税金がスパコンに使われてもよいものなのか、考えてみてください。

★スパコンはF1マシン、そして、工学者のチャレンジ

まず、スパコンを簡単に解説しますと、スーパーカーのようなものです。F1マシンというのが適切でしょうか?
皆さんのつかわれているノートパソコンやデスクトップパソコンがカローラだとしますと、F1マシンに匹敵するという意味です。

ノートパソコンのCPUは最近は速くなりました。さくさくとソフトが動くのを皆さんも体感していると思います。
そのCPUが22万個載っているのが世界最速のコンピュータで、スパコンと呼ばれます。
どのくらい速いかというと、最近最速のCorei7のノートと比べると、その性能の1万倍くらいの性能を持っています。
カローラで180Km/h出るとしたら、180万km/hでる自動車に匹敵するわけです。あほみたいな世界です。

車好きがF1やランボルギーニやフェラーリといったスーパーカーにあこがれるように、計算機アーキテクチャ屋はスパコンにあこがれ、その世界最高峰の技術から、次世代の技術を学びます。
つまり、できることなら「世界一でなければいけないんです」。そうでないと、人類としてのチャレンジになりません。

その競争は毎日行われています。それも地味に。
どこででしょうか?↓のサイトでです。
http://www.top500.org/
このサイトが記す世界最速500位までの結果が世界中のスパコン屋が目指す最高峰で、その結果の更新ごとに一喜一憂する科学者がいるわけです。


★何に使われるのか?

馬鹿みたいな量のシリコンを使って、電気は垂れ流しになるスパコンですが、じゃぁ、何に使われているのでしょうか?
なぜそこまで、国家プロジェクト並の重要性を持ってやるのでしょうか?

実は、スパコンでないと解けない問題というのがあるわけです。

いま、僕は理研と一緒に仕事をする機会があって、神戸に「建設中」の「世界一でないといけない」スパコン「京」のプロジェクトに絡んでいます。
京は理研がオーナになり、2012稼働予定です。これに期待を寄せる科学者が実はたくさんいるんです。

理研の人たちと一緒にやっている問題は磁石の問題で、磁石はなかなか奥が深く、よくわからない性質がたくさんあり、その中でも、超伝導はよくわからないことばかりなのです。

JRはリニアモーターカーを超伝導で実現しようとしているのです。超伝導とは何かというと、-273度になると物質の電子の方向がそろい、磁石がそれに安定して浮く現象が発生します。この特性を使って、列車を移動させるのがリニアモーターカーの仕組みです。
しかし、-273度は低すぎて実用化に向きません。高温の超伝導体と呼ばれる新物質の発見に人類は躍起で、やっと-100度くらいの物質はできるようになりました。これを常温(20度)くらいまであげるのが夢です。

この高温で起こる超伝導体ですが、なぜそのように高温でも電子の向きがそろうのかがきちんと解明されていません。解明されると、常温超伝導が実現できるかもしれませんし、解明できればノーベル賞でしょう。
それを、計算からモデル化し、高温超伝導が発生するメカニズムを解明しようとする人たちが理研にいて、その人たちは京の計算能力に期待を寄せているのです。

じゃぁ、どのくらい大きな計算なのか?

たとえば電子4つのシミュレーションしようとすると、電子なので量子力学的な思考をしないといけません。
そこで、すべての方向に対する電子の動きをシミュレーションするとして、いろいろ加味すると、たとえば、2の32乗(2^32)個の解を持つ連立方程式を解くような操作が必要になります。
これは、パソコンでは計算できない、計算してもとてつもない時間のかかる計算です。それを何千、何万通りとしないと、現象をシミュレーションできないわけです。

このように、生活に密接な現象がスパコンで解明されようとしていて、さらに、それは国力でもありますから、スパコンを開発できる強い国が解明するわけです。開発した国は、当然、技術を独占しますから、日本がたとえばアメリカに「貸して」と頼んだところで、貸してくれるわけがないわけです。
日本がスパコン開発に遅れると、列強国がどんどん追い越し、このような技術はどんどん立ち後れるわけです。それでも「2番じゃいけない」なんていってられるのでしょうか?


★バルセロナの場合:カラダの科学に絡めて

もう少し、スパコンの応用を、このブログの話題を絡めて紹介します。

スペインのバルセロナは皆さんご存じでしょう。サグラダファミリアをはじめとるするガウディ建設が立ち並ぶ、とても美しい港町です。
このスペインの都市には実はスパコンに熱い町なのです。

バルセロナスーパーコンピュータセンターという名前が5年ほど前、世界を揺るがしました。そこに納入されたIBMのスパコンBlue Geneが世界一をとったからです。それも当時の性能としては3桁違う性能をたたき出したからです。
いまも、このスパコン技術は健在で、買うこともできます↓
http://www-03.ibm.com/systems/deepcomputing/solutions/bluegene/
このサイトにある箱1つで、1位を獲得した当時の価格は20億円ほどだったと聞きます。

バルセロナスーパーコンピュータセンターはなぜこんなすごいマシンを入れたのか?
これにはおもしろい背景があります。

ヨーロッパで生活したことのある方は気づいているかもしれませんが、製薬会社がそのセンターの周りに集まり、計算力必要になったわけです。
ヨーロッパの薬のほとんどはバルセロナで製造されています。箱に製造元がバルセロナの会社名をよく見ます。

最近の薬学は試験管を振るのではなく、分子同士の反応をスパコンで計算させ、考え得る副作用を計算から求めるという方法で行われています。
ですから、計算パワーのニーズがあったわけです。センターの周りには製薬会社が集まり、センターのスパコンの維持費を稼いでいるわけです。

つまり、カラダの科学はスパコンにつながっている訳なんです。

★そして、グランドチャレンジへ

薬学もそうですが、カラダの科学の別なモノとして、心臓の鼓動をシミュレーションしようというグループもいます。
この鼓動は今の最新のスパコンであっても、一度の「ドッキン」という鼓動を計算するのに数分かかるとのことですので、リアルタイム以下にはほど遠い計算時間です。これをリアルタイムで計算できると、人の体のメカニズムをリアルタイムに可視化できる可能性があるのです。
このようなニーズからいっても、スパコンはとにかく巨大化することでしょう。

ちょっと難しい話をすると、FLOPSと呼ばれる単位で性能は計測します。1秒間に何度の小数点数の演算ができるかというのがFLOPSの単位です。
今の世界最速のスパコンは約3ペタFLOPSですので、3x10^15の小数点数の演算が1秒間にできるわけです。それが京では10ペタFLOPSになり、その先のゼッタFLOPSには数年のうちに到達するといわれています。

昨年の「仕分け」で、このような人類の飽くなき挑戦がみなに知られたことはうれしいことでもあり、広まった経緯はあまりうれしいものではないですが、胸を張って研究にいそしむことができるようになりました。

僕は自分の研究からいっても、スパコンは必要なモノであり、日本は手を抜いてはいけない分野であると思っています。
皆さんはどう思われますか?

やまぎわ

posted by fifss at 03:57| Comment(0) | スパコン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

帰国して1年。思うこと。

★あー帰れない

いま、古巣のリスボンにきています。ストライキにあって、飛行機が全便キャンセルになり、帰れないでいます。
まぁ、言葉通じるから、全く不便なく、やりたいことをやっていますが、バレンシア-パリ間のチケットを買い直しとは痛いことになりました。
カードの保険が効くことを祈ります・・・

★いいわけ

さて、ぜんぜんブログに投稿できる状況になくて、皆さんからしかられまくりで大変申し訳なく思っております。いいわけをすると、
1)このブログに見合う「ドキッ」とする事実に出会えない
2)つぎつぎと意味のわからんイベントが起こる
ということですが、1)がおおきいです。僕はComputer ScienceでもArchitecture屋なので、カラダのことは専門的なことがかけないという情けない状況にあります。

で、ない頭を絞って、スポーツに関連したことを書いてみようと思い、この一年、帰国してからのことを思い出しながら、なにかあるかなぁ?と頭を巡らしてみました。
(スポーツ科学には貢献しなかもしれませんけど、ヒット数には貢献する?)

★本題:動く組織、残る結果

日本に帰る前は本当に不安でした。日本のアカデミックに全く友人がない、言葉のリハビリ、文化のリハビリ、生活の立ち上げ、等々・・・やっぱり8年離れると簡単に浦島太郎になります。
日本に帰ってきたら、とにかく時間を割いて、奔走して、なんとかしないといけないと常に思って動いていたことは以下の3つです。

1.チーム作り
2.金作り
3.場所作り

どれも独立している事柄のようなんですが、密接につながっていて、さらに、これって、よく考えると会社でも、スポーツチームでも、気をつけないといけないことなのかなと思っています。
真の経営者というのは、これを意識せずやっているのかな、と思うこの頃、もっとがんばらねば、と思います。
そして、これができると、動く組織ができあがって、結果がついてくるものであると思っています。

と、結論から先に話してしまったところで、それぞれ、どんなことをやってきたのか話してみたいと思います。
この若造、偉そうに!と思われる方、ここで終わりにしましょう。もっと偉そうなこといいますので・・・

★チームを作る

チーム作りは自分の研究の輪を作ることに匹敵すると思っています。スポーツなら、チームスポーツでも、個人スポーツでも、互いを高められて、さらに、よい影響を与えあう組織を作ることが、成功への近道ではないでしょうか?

僕はチームを作る上で以下の事柄を注意して、学生たちや大学院生、ポスドクを選んできました。
1)僕と一緒にいて、意味があるか?僕がよい影響を与えることができるか?
2)僕にもたらしてくれるものはあるか?
3)チームの中で必要な人材になるか?

バレーボールやサッカーのチームでの人選がこれに当てはまるかわかりませんが、研究チームを組む上では、1と2が超重要ではないかと思います。お互いのモチベーションはこの項目で決まると思います。

いま、学部生が6人、博士課程が3人、ポスドク1人というチームが組み上がろうとしています。
このブログを読んでくれたら、どんな意図で選ばれているのか考えてくれるとうれしいです。そう、選ばれているのですよ。

★金作り

研究所にいたからでしょうか?研究するには金が先行するという定説(工学では)を信じています。
チーム作りにはお金がいる、だからおなけが必要という考えもありますし、後述の場所を作るには、お金がいるという考えもあります。

アカデミックでお金を作るにはどうしたらいいでしょうか?
こたえ:競争的研究予算を取ってくる、企業から寄付をもらう、というところが後々、何かと自分にプラスに働くものでしょう。

ということで、いっぱい助成金を出しまくりました。全然とれないところが力不足ですが、チームを広げられるだけの最低限を獲得するのがやはり研究チームの長としての責務かな、と思っています。

この研究資金というのは、学生に関連するものも含んでいます。学生の奨学金をみてつけて、自分のために働いてもらうことも責務だと思います。
日本の大学は先生が奨学金を見つけなくてもよいので楽だなぁ、なんて最初は思っていましたが、そうじゃないですね。やっぱり見つけてあげないと、学生は集中できませんよ。これは、国なんて関係ない、と思います。

うちにはいま、外国人が3人になろうとしています。すべて、何かしらの外部の奨学金の当てをつけました。彼らにとっては、この奨学金が場所作りにもつながってくれるとうれしいと思っています。
学位のために論文を書いてあげられないけど、結果を出すためのお膳立てをしてあげる、というのが僕がいつも気にしていたことです。チーム監督なら当たり前だと思いますが、それがなかなかできない。結果につなげるなら、身を切ってでも、過去の程度はやってあげないと、と思っています。

自分が外国で暮らしていたときに、やはり、金銭面での安心というのは物事を大成させるには大切と思っています。チームスポーツでもそうですよね?

★場所作り

ヒトってやはっり、必要とされる場所があると、がんばろうとするものじゃないですか?
アカデミックの世界でもそうじゃないかと思いますし、チームスポーツでは当然のことと思います。
だから、必要とされている場所を作る、ということを必死にやってきました。
僕の研究室にいる学生たちは皆、必要とされています。誰が欠けてもそのキャラクタのバランスを補うものはなく、また、そうならないような人選をしてきたつもりです。
必要とされる場所作りは博士課程の学生たちがもっともセンシティブだと思います。自分のもつ必要とされている技量でテーマを遂行し、学位も取る、という人生でもっとも大きな命題に直面するわけですから、必要としない研究室への滞在は苦痛でしかないわけです。

場所というのは、Facilityという意味もあります。研究遂行のためのモノが必要になるわけで、ゆったりと研究ができるだけの環境という意味での場所を作ってあげるのが、チームを統括する監督の責務だと思います。
そういう意味で、これは金作りに密接に関わるわけですが、環境のクオリティは、チームのクオリティであると思います。そんなことを考えながら必死に研究室を作ってきました。
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以上3つのポイントは若き監督業の方々のヒントになれば幸いです。
日本の教育制度では残念ですが、監督になるためのすべを教えてもらえません。ポルトガルでもそうでした。
でも、チーム作って、壊れていくさまや、成功していくさまをサッカーから脇で見る環境はあります。

若きジョゼ・モーリニョはFCポルトで英語の通訳をしながら、監督がチームをつくり、CLカップを勝ちとるさまをみていたことでしょう。それはいま、レアルマドリッドでの栄光につながっていることと思います。
研究も同じではないかと思っています。組織で同じ方向を向いたマンパワーが集まったとき、環境がそろえば、大きなミラクルを生み出すモノでしょう。
僕はそう信じて、ここ1年走り、その序章の終焉が見え始めました。ここからが栄光へ向かっての出港だと思っています。船はもうすぐ出航します。


やまぎわ
posted by fifss at 03:38| Comment(0) | 組織管理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月23日

祝!金メダル!

速報です!なでしこJAPANがアジア大会で北朝鮮を1−0で破り、優勝しました!
応援ありがとうございました!

広瀬
posted by fifss at 00:18| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月22日

成長期のスポーツ障害と予防

ご無沙汰しております。研究員の広瀬です。
ところで、なでしこJAPAN(サッカー日本女子代表)がアジア大会で決勝進出しました。優勝をかけて北朝鮮と戦います。是非応援してください。

さて、前回告知をしたとおり、今回は成長期のスポーツ活動中に起こるケガについてご紹介したいと思います。

スポーツで生じるケガ 〜外傷と障害〜
スポーツ活動中におこるケガ(傷害)は外傷と障害に分類されます。

傷害.jpg

成長期のスポーツ活動中には外傷も障害も発生します。しかし私たちが、サッカーを行っている児童を対象に調査したところ、小学校中学年〜中学校中学年では障害が多く、中学校高学年から外傷が多く発生していることがわかりました1)。同様の調査はフランスでも行われており、同じ結果が認められています2)。また、障害がよくおこる体の部位として膝が、外傷がよく起こる部位として足首があげられています。

傷害分布.png

そこで、今回は成長期のスポーツ活動で生じる膝の障害について考えていきたいと思います。

成長期に生じる膝の障害 〜オスグット病に着目して〜

成長期の膝に生じる障害として、オスグット病(Osgood-Schlatter disease) や、ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎:腱炎)などがあげられます。

オスグット病は骨端症の一つで、骨の端に生じる障害です。

オスグット.jpg

成長期の骨は、大きく骨幹、骨端、骨端軟骨(成長板)に分けられます。身長の増加は、骨端軟骨が骨に置き換わり、骨が縦方向に伸張することで得られます。成長期には身長増加が著しい=骨端部の変化が著しいのです。このような変化が組織のもろさ(脆弱性)につながり、骨端部での障害、すなわち骨端症を引き起こすと考えられます。特に成長期の急激な身長増加に対して、膝関節周辺の骨の成長がもっとも影響しているため、オスグット病のように膝関節の骨端症がよく起こるのです。このあたりのメカニズムについてもう少し細かくみてみましょう。

骨の成長.jpg

膝(ここではすねの骨=脛骨)の骨端部の発育は大きく4つのステージに分けられます。

脛骨ステージ.jpg

このなかでApophysealステージには、図で見るとわかるように、細かな軟骨のかけら(二次骨化中心)が骨端部の少し離れた場所にでています。このかけらと大きな骨端部の軟骨(一次骨化中心)が徐々に骨に変わりながら癒合して、最終的に強い骨になっていくのです。Apophysealステージは軟骨のままなので、非常に骨端部がもろい状態なのです。
 さらにこの軟骨のかけらがある部位周辺(脛骨粗面)には、膝蓋靱帯といって、ももの前の筋肉が付着しています。従って運動中に筋肉が伸び縮みするときの引っ張るようなストレスが、直接この部位に加わるのです。

脛骨粗面.jpg

このように「組織的にもろくなっていること」と、「運動中のストレスがその部位に加わりやすい」という2つの要素が影響して、オスグット病は発症します。実際にオスグット病はApophysealステージによく起こることがわかっています3)。また、私たちが行った169名のユースサッカー選手を対象にした調査では、21膝がApophyseal stageと評価され、そのうち18膝がPhase2(身長増加が著しい時期; 詳細は前回のブログを参照してください)に集中していました。

障害予防のためのウォームアップとストレッチング

このように成長期の身長増加が著しい時期には、組織のもろさと、もろい場所に運動時のストレスが加わりやすいことが影響してオスグット病のような骨端症が起きやすくなります。子どもたちのスポーツ活動をできるかぎり継続させるためにも、オスグット病の発症を予防することが必要です。
予防方法の一つとして、組織的にもろい部位にストレスが加わりにくくすることがあげられます。そのため必要なことがストレッチングです。筋肉の固さをとることで、日常的に筋の付着部に加わるストレスを軽減させます。特に大腿部前面や後面の筋のストレッチングは必須といえます。この際、骨盤の前面(腸腰筋)や、二つの関節にまたいでいる大腿直筋をしっかりとストレッチすることが必要です。大腿部前面のストレッチとして下のような「ハードルストレッチ」をよく見かけますが、この方法よりも股関節を伸ばした状態でストレッチングをすることで、よりしっかりと大腿直筋をストレッチングすることができます。また、ウォームアップで筋の伸張性(特に筋が伸ばされながら力を発揮し、衝撃を緩衝する)を促すことも必要です。具体的には片脚でバランスをとりながら、ゆっくりとスクワット動作を行ったり、少ない回数のバウンディングを行ったりします。

ハードルストレッチ.jpg

股関節伸展ストレッチ.jpg

早期発見・早期対応

上述した方法により、障害発症を予防することは非常に大切です。ただし、私のスポーツ現場での経験上、完全に予防することが難しいのも事実です。従って次に重要なのは、できる限り早期に障害を発見し、対応することだと考えています。重篤な状態に至る前に適切に対応することで、運動を継続しながら少しずつ症状を改善することが可能と考えます。そのための方法として「圧痛チェック」を推奨しています。脛骨粗面を自分で押した際の痛みの程度と、運動中や日常生活での痛みを総合的に評価し、下のガイドラインに沿って対応します。私が個人的に行ってきたガイドラインですが、是非活用してください。

ガイドライン.jpg

必ず整形外科に

このような対応をとることで、運動をしながら症状改善が見込めますが、かならず子供が痛みを訴える場合には整形外科を受診させてください。そして医師の指示に従って対応をしましょう。
特にスポーツに親和性のある整形外科医にみてもらいたい場合には、日本体育協会のホームページから情報が得られます。参考にしてください。

日本体育協会HP スポーツドクター検索URL
http://www.japan-sports.or.jp/medicine/doctor.html


引用・参考文献
1) 広瀬統一 (2009): ユースサッカー選手のスポーツ傷害と発育発達. JJBSE 13(4): 212-217

2) Le Gall F, Carling C, Reilly T, Vandewalle H, Church J, Rochcongar P. (2006)::Incidence of injuries in elite French youth soccer players: a 10-season study. Am J Sports Med. 34(6): 928‐938

3) 平野 篤 , 石井 朝夫 , 福林 徹 , 宮崎 聰 , 宮川 俊平 , 林 浩一郎 (1998):発育期スポーツ選手における―骨粗面のMRI所見とOsgood-Schlatter病の発症過程. 日本整形外科スポーツ医学会雑誌.18(1):27‐33
posted by fifss at 00:41| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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