2011年05月12日

遺伝子レベルからみた時差ボケとは?

こんにちは。

FIFSS客員研究員、「元」ケンタッキー大学の宮崎充功です。
私事で恐縮ですが、この度、4月末日をもちましてアメリカ合衆国・ケンタッキー大学での5年間の勤務を終え、日本へ帰国致しました。
FIFSSのメンバーをはじめ、家族や仲間達からの暖かなサポートにも恵まれ、大変充実した研究生活を送ることが出来ました。
心より感謝申し上げます。

アメリカより帰国して10日ほどが経ち、「時差ボケ」も治まり、新生活の立ち上げにも目処がついてきました。
さて「時差ボケ」とは、異なるタイムゾーンへの移動後に発生する睡眠および消化器系の不良を中心とする健康状態の不良を総称したもので、海外旅行などに伴い、多くの方が実際に体験していることと思います。
この「時差ボケ」の原因として、概日リズム、いわゆる体内時計の乱れが指摘されています。

概日リズムとは?
概日リズム(Circadian Rhythms、サーカディアンリズム)とは、ラテン語のCircaおよびDiemという単語に由来し、それぞれ英語でaround(だいたい)、およびday(1日)を意味します。
つまりサーカディアンリズムとは、約24時間、約1日周期で振動する生物学的サイクルのことを表します。
この24時間周期の概日リズムは、地球上に存在するほぼ全ての生物に等しく存在すると考えられており、バクテリアから人間まで、非常に高度に保存された生物システムです。
例えば人間の場合、睡眠や体温調節、ホルモン分泌といった生理機能の多くは、この生物時計システムとダイレクトにリンクしていることが知られています。

細胞内分子時計(Molecular Clock)
概日リズムに関する研究は、1997年に哺乳動物における時計遺伝子(Clock, Bmal1, Periodなど)が発見されて以来、爆発的な進展を見せています。
その結果、この24時間周期の概日リズムという生物システムは、遺伝子レベルにおいて非常に巧妙に制御されているということがわかってきました。
これら時計遺伝子の制御による細胞内システムを総称して、コアクロック (Core-Clock) と名付けられています。

中枢時計と末梢時計
この概日リズムの制御中枢は、視床下部の視交叉上核 (SCN: suprachiasmatic nucleus)と呼ばれる部位に存在し、身体全体の概日リズムを規定するペースメーカー(中枢時計)としての役割を有しています。
古典的には、SCNが唯一の概日リズム制御体であり、その他の末梢組織で観察される様々な生理的現象の概日リズム変動は、SCNに完全に依存していると考えられてきました(Mster-Slave relationship)。
しかしながら近年では、身体を構成する細胞一つ一つに、それぞれ小さな細胞内時計機構が備わっていることがわかってきました。
現在のところ、概日リズム制御におけるSCN(中枢時計)とその他の末梢組織(末梢時計)との関係は、オーケストラの指揮者と奏者のような関係であると考えられています。
つまり、各組織・細胞に存在する小さな時計達は、それぞれ独自にリズムを刻むことができるものの(各楽器の奏者)、SCNという指揮者が各パートのリズムを統合・同調させることで、身体全体として一つのリズム発振機構が形成されています。

分子レベルから見た時差ボケとは?
いわゆる「時差ボケ」の原因としては、一般的には、「体内時計と実際の時間がズレてしまっているから」と説明されることが多いのですが、遺伝子レベルではさらに複雑な現象が引き起こされています。
例えば研究室の中で飼育されている実験動物達(マウスやラットなど)は、通常12時間毎の明暗サイクルの下で管理されていますが、ある日突然この明暗サイクルを進めたり(もしくは遅らせたり)することで、擬似的な「時差ボケ」状態を作り出すことができます。
この時に中枢時計や末梢時計のリズムを解析すると、いわゆる時差ボケの状態では、中枢時計と末梢時計がそれぞれバラバラのリズムを刻んでしまっている(場合によっては完全にリズムを失っている)ことがわかってきました。
つまり遺伝子レベルからみた時差ボケの状態とは、単純に体内時計と実際の時間がズレてしまっているというだけではなく、身体の各部位にある時計達が、それぞれバラバラになってしまった状態であると考えることができます。

概日リズムの制御異常と疾患
これまで多くの疫学的研究から、睡眠や食事のタイミングなどのライフスタイルと、肥満や糖尿病を含む生活習慣病の発症との間に密接な関係があることがわかっています。
睡眠や食事のタイミングを一定に保つことの難しい時間交代制勤務(夜勤、朝勤など)の労働者、いわゆるシフトワーカーを対象にした疫学的調査の結果、心血管系疾患や糖尿病など、様々な疾病への罹患率が有意に高いことなどが報告されています。
また実験動物を用いた基礎研究領域における検討からも、時計遺伝子に変異のある動物において様々な異常形質(肥満、糖代謝能異常、サルコペニア様変化など)が観察されています。

このように概日リズムという生体機構は、身体の生理的機能や健康状態の維持において、これまで考えられてきた以上に重要な生物システムであることがわかってきました。
最近では、「時間医学」と呼ばれる研究分野も注目を浴びています。
今後、これらの知見をスポーツ・健康科学分野に応用することで、より効率的なトレーニング効果の獲得などを目指した「時間トレーニング」といった、新たな分野の開拓が成される日も近いかもしれません。


Mits


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Mitsunori Miyazaki, Ph.D., RPT
http://sites.google.com/site/mitsunorimiyazakiphd/
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2010年04月14日

奇跡の地球物語出演

内田です。4月11日午後6時半より、テレビ朝日系「奇跡の地球物語」、テーマ「睡眠」に出演しました。この番組は、非常に真面目に番組制作に取り組んでいて、好感の持てるスタッフとの仕事でした。小川景子研究員も出演し、またテロップにも「スポーツ科学未来研究所」と出ました。

テレビの仕事は、対象が一般なので、わかりやすく作る必要があるということをいつも感じます。テレビ制作のスタッフは、ちょっとでも難しい言葉などがが出てくると、視聴者がチャンネルを変えてしまう、ということがあり、スムーズに理解しながら見続けてもらえることをよく考えていることが分かりました。この番組は、サザエさんが裏番組なので、サザエさんの方が随分わかりやすいでしょうしね。

そういう中では、科学的に正確な記述とわかりやすさの間での苦労を一緒にした感じがします。また、一般に向けて話をするということの面白さと難しさを学んだ気がいたしました。

テレビの仕事は、研究的には業績にもならず、時間もとられるのですが、こういった研究の一般への理解や普及という点からは大きな効果があるので、今後も良い番組であれば続けていきたいと思いました。

所長 内田 直
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2009年12月18日

India National Sleep Medicine Course

インドで開催された、National Sleep Medicine Courseに講師として招かれた。そこで、二つの演題の講義をおこなった。一つは、Exercise and Sleep、もう一つはSleep, Bright Light and Melatonin。最初のほうは、運動が睡眠に与える影響ということで、これはまだ我々の研究室でも研究中のトピックだが、現状では運動は徐波睡眠(深い睡眠)を増やすと考えられている。ただ、その効果は思ったほど大きくはない。過去の文献を総合的に再検討したMeta-Analysisでは、せいぜい数分程度増加するだけである。一日だけの運動で、その日によく眠れるかと思って、たとえば10kmのジョギング(もちろん効果はその人の体力にもよるが)を行っても、思ったほど睡眠は変わらない。いろいろなことが言われているが、多くの実験では若い被験者を使っているので、どの道よく眠るので、それ以上よく眠りようがないというものである。そのほか、いろいろな説があるが、我々はもう少し睡眠を総合的に体のシステムとして見てみようと思っている。ちょっとわかりにくいかもしれないが、これについてはまた別項で書きたい。もう一つは、時間生物学的な話。生体リズムをずらすのに、光やメラトニンが有効であるということを、概日リズム障害という疾患から考える話をした。
india.jpg

インドは面白い。この会にはインドの親しい研究者が招待してくれたのだが、私もインドが好きなので喜んでOKした。インドには10億の人口がおり、貧富の差はものすごく大きい。非常に裕福で多くの使用人を使って、生活をしている人もいれば、日々の食事に困っており、文字通り泥まみれで生活している人もいる。実際、納税者はせいぜい2-3%で、後の人は税金を払っていないらしい。しかし、10億人のうちの最裕福層の3%とすると、3000万人の金持ちが税金を払うわけだから、それはそれなりの額にはなるだろう。

このような貧富の差はもちろん好ましくないが、これが地球の現状で、インドはその縮図のようなものだ。一緒に話をしたインドの睡眠研究者たちは、それでも自分の国を少しでも良くしようと努力している。同時にコペンハーゲンでも環境問題についての会議が開かれていたので、新聞でも報道されていた。しかしながら、やはりその国の政治家は、その国の利益を最優先せざるを得ない。地球規模でものを考えるというのはなかなか現実的には難しい。今のままであれば、地球環境はいずれ破たんするだろうといわれているが、破たんしても少なくとも半分くらいの人類は、生き残るだろうからそうなったらまた考えるということになるだろうなとも思う。インドでは、貧富の差もはっきり見えるし、なかなか改善されないながらもそこに潜む矛盾をみることはできる。地球規模となれば、日本人の我々の目には最貧国の実態は見えない。それよりも、目の前の快適な生活が少しでも不快になることに対しての抵抗感が強い。

インドで、ハヌマンというお猿の形のヒンドゥーの神様の寺院をお参りしたら、あまいお菓子とバナナをくれた。バナナはちょっと茶色くなっているところがあったので、それを捨てようとしたら、一緒にいるインド人がそれを捨てるのか、それだったらそこの道端にいる人にあげようと、道端に座っている腹をすかせている人に食べ物を渡してくれた。

コペンハーゲンとインドと日本といろいろと考えることは多くあった。スポーツ科学は、地球環境に何ができるのかな。
(内田 直)

posted by fifss at 23:25| Comment(0) | 睡眠と生体リズム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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