2009年11月23日

ユースサッカー選手のタレント発掘の現在と未来

初めまして。FIfSS研究員の広瀬統一(Norikazu HIROSE; soccer)です。早稲田大学スポーツ科学学術院に所属しています。現在、サッカー女子日本代表(なでしこJAPAN)のフィジカルトレーナーも務めており、国際試合(vs. NZ)があったため、大変盛況だった11月14日のシンポジウムは欠席させていただきました。多くの研究者が集まり、非常に興味深いディスカッションが行われたようです。本研究所が、今後さらに多くの研究者やフィールドコーチの集合体となり、スポーツの未来を発展させる母体となることを望みます。

さて、シンポジウムの研究員紹介でも川田研究員に紹介していただいたように、私の研究分野は@タレント発掘、A発育発達と成熟度、Bスポーツ傷害予防とコンディショニングです。今回は@Aのタレント発掘と成熟度についてご紹介します。

―タレントとは?―
スポーツ分野での「タレント(資質)」とは遺伝的(先天的)なものを指し、選手の将来性を予測する因子ととらえられます。私が専門としているサッカーでは非常に重要な研究テーマと位置づけられており、4年に1度開催されるWorld Congress on Science & Footballではこのテーマだけでシンポジウムと発表セッションが設けられているほどです。またヨーロッパの多くのサッカークラブでは独自のタレント発掘指標を持っており、特に有名なのがAjax(オランダ)のTIPS(Technique, Insight, Personality, Speed)でしょう。このチームではこれらの要素を評価基準として、セレクションを行っています。スポーツ科学はこの判断過程を客観的に裏づけることで貢献できると考えています。

一方、トップアスリートを育てる過程は大きく“Detection”、“Selection”、“Identification”、“Development”の4つに分類されます。これは優れた能力を持つ選手を競技に関係なく“探しだし”、専門競技の将来的なパフォーマンスを予測するために、身体的、生理学的、心理学的、社会学的な側面から測定評価し、能力を“識別、選別”する。 そして選手が自分自身の潜在能力に気づくための適切な指導環境を与え、“育成”する。この4つの過程が整っていないと、優れたアスリートは育たないと考えられています。本邦におけるタレント発掘は、おもにDetection、Identification、Selectionの過程を意味していると思いますが、私は主に”Selection・Identification”に興味をもって研究を進めています。

―Selectionの課題―
現在のプロサッカー選手の生まれ月分布をみると、Jリーグでは4〜6月に産まれた、いわゆる“遅産まれ”が多く、1〜3月に産まれた“早産まれ”選手が少ないことがわかります。このようなプロサッカー選手に見られる“産まれ月分布の偏り”はDudink(1994, Nature)のイングランドやオランダのリーグを対象とした報告を皮切りに、ドイツ、ベルギー、南米、日本など、多くの国で報告されてきました。このような傾向がなぜ?いつ?生じるのかは明らかになっていませんが、私達の調査では、日本ではすでに10歳にはこの傾向が生まれていること、そしてこの傾向には成熟度の個人差が影響しており、いわゆる早熟なものが優先的に選ばれていることがわかりました。つまり、小学生年代のセレクションで早熟な遅生まれ選手が数多く選ばれ、その比率が成人になるまで受け継がれていると考えられるのです。
しかし小学生年代で早熟なものも、いつまでもそのアドヴァンテージを享受できるわけではなく、いずれは晩熟なものに追いつかれます。先行研究では、思春期に晩熟な児童は、その時期には早熟な子供よりパワー能力に劣っていますが、30歳になると、その差が逆転しています。つまり小中学生で有している身体リソースの優位性が、早熟であるために得られたものであれば、いつかは優位でなくなる可能性が高いのです。これは選手の将来を予測した評価とはいえず、今後個人の成熟度の遅速を考慮して、選手のパフォーマンスの将来性を予測することが必要となります。

―Identificationの指標となりうるものは?―
私たちはサッカー選手を対象としてIdentificationについて検討しています。その中で、おもに小学生期の運動能力や判断能力(中枢情報処理能力・反応能力)を指標として、長期的・短期的なサッカーキャリアとの関連について調査してきました。その結果、18歳でプロサッカー選手になったものは小学生期に優れた反応能力を有しており、また競技レベルの高い多くの選手が優れた走スピードを有していました。ただしスピードは体格や成熟度の遅速が非常に大きく影響するため、今後これらの能力を成熟度で補正した形で評価し、長期的なキャリアとの関連について詳細に分析する必要があります。この課題については現在進行中です。

このように、スポーツ現場で行われている子供期のセレクションの現状を見ると、多くの場面で体格や運動能力に優れた、早熟な選手が優先的に選ばれている現実を目にします。これは、自分の眼で見える、現在の選手の能力だけを評価した結果なのかも知れません。しかし指導者は選手の現在だけでなく、将来も見据えながら評価し、指導していかなければなりません。特に子供期のスピード、パワーなどの体力要素は、体格や成熟度との関係が強く、子供期には成熟度の個人差が大きいため、成熟度の遅速を考慮して評価・指導していく必要があるでしょう。次回はこの成熟度をどのように評価するか?その評価法について紹介します。乞うご期待!


今回の内容に関連する論文

Hirose N., 2009, Relationships among birth-month distribution, skeletal age and anthropometric characteristics in adolescent elite soccer players, Journal of Sports Sciences, 27(11): p1159–1166

広瀬統一、2008、サッカーのタレント発掘と育成、トレーニング科学、20(4)、p253-259

広瀬統一、福林徹、2008、プロサッカー選手のタレント識別指標の検討、スポーツ科学研究、5、p1-9
タグ:Norikazu
posted by fifss at 13:13| Comment(0) | Talent identification | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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