2010年08月27日

Point:Counterpoint

こんにちは、FIfSS客員研究員・ケンタッキー大学の宮崎充功です。
こちらアメリカでは新しいセメスターが始まり、大学キャンパスもフレッシュマンで溢れ、すっかり新年度といった感じです。

さてスポーツ科学領域の研究者がよく目を通す学術誌の1つに「Journal of Applied Physiology」という雑誌があり、その中に「Point:Counterpoint」という企画があります。
これはあるトピックに関して、専門家同士がそれぞれ「Pro」「Con」の立場に別れ、紙面上で意見を戦わせるというものです。
2010年6月号に掲載されたトピックは、「IGF is/is not the major physiological regulator of muscle mass」、日本語訳をすると、「インスリン様成長因子*は骨格筋量の生理学的規定因子として重要か否か?」といったところでしょうか。

「Pro」「Con」それぞれの意見を簡単にまとめると、以下のような主張です。
(わかりやすくまとめるため、厳密に言うと正しくない部分も含まれてます)

「Pro」
・IGFは胎生段階の筋肉の発生、分化、増殖などmyogenesis全般にとても大事
・成熟した大人の筋肉でも、損傷後の筋肉の再生や筋衛星細胞の活性化などは胎生段階の反応とよく似てるから、IGFは大事
・IGFを筋肉にたくさん与えたり、遺伝子工学的にIGFをたくさん発現するようにすると筋肉はムキムキになるから、IGFは大事

「Con」
・特に大人の成熟した筋肉の場合、IGFがなくても成長・肥大するから、そんなに大事じゃない
・遺伝子工学的に肝臓由来のIGFを取り除いても、筋肉や骨、内臓器を含む個体の成長・発達はほぼ完全にノーマル。
・IGFが“筋肉でのみ”働かないように遺伝子を操作しても、トレーニングすると、遺伝子操作をしてない個体と同じように筋肉がムキムキになる。だからIGFはそんなに大事じゃない

それぞれの意見はいずれも科学的根拠に基づいたものであり、どちらが正しい・間違っているという判断は難しいものがありますね。
おそらくどちらの主張も正しいのでしょう。

またこの「Point:Counterpoint」という企画では、討論をする2つのグループ以外にも複数の専門家がいろいろな角度からコメントを寄せており、非常に参考になります。
ちなみにこのトピックに関しては、私の所属する研究グループも含めて計15グループからの意見が掲載され、8割方が「Con」の意見を支持していたのが印象的です。
私個人の意見としては、「筋肉量を規定する因子はその他にも数え切れないほどあり、IGFはその中の1つでしかない」と考えています。

またここでは、筋肉の成長・肥大に関する細かなメカニズムには触れていません。
もしこのトピックに興味を持たれた方は、「体育の科学、2010年10月号、杏林書院」に「骨格筋肥大の分子制御機構」と題した総説を執筆しておりますので、そちらを参照していただけると嬉しく思います。


*インスリン様成長因子とは?
(以下、Wikipediaより一部抜粋)
インスリン様成長因子(IGFs;Insulin-like growth factors)はインスリンと配列が高度に類似したポリペプチド。細胞培養ではインスリンと同様に有糸分裂誘発などの反応を引き起こす。IGF-2は初期の発生に要求される第一の成長因子であると考えられるのに対し、IGF-1の発現は後の段階で見られる。IGF-1は主に肝臓で成長ホルモン(GH)による刺激の結果分泌される。人体の殆どの細胞、特に筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺の細胞はIGF-1の影響を受ける。インスリン様効果に加え、IGF-1は細胞成長(特に神経細胞)と発達そして同様に細胞DNA合成を調節する。

参考文献
J Appl Physiol 108: 1820–1824, 2010
posted by fifss at 01:20| Comment(0) | 可塑性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月07日

「皺と紫外線と私」

タイトルがパクリだとすぐに分かった方は皺が気になる年代の方でしょうか。
はい、平松愛理さんの、「部屋とYシャツと私」をパクらせていただきました。
日々、太陽の照りつけが厳しくなる季節でもありますので、今日は「皺と紫外線」について書いてみたいと思います。

皮膚の皺形成は、外見上分かりやすい老化現象の1つです。老化に関する研究では、筋骨格系、呼吸・循環器系の研究が盛んに行われていますが、皺の研究はそれらに比べ盛んとは言えません。
その理由に、「皮膚の皺は病気ではない」、「生死に関わらない」というのが挙げられます。確かに、顔に皺が出来ても健康にはほとんど影響しません。それに、私は男ですが、目尻に皺が出来たとしてもほとんど気にしません。しかし、女性にとっては生死に関わらなくても、「死活問題」と考える方もいるとかいないとか・・・


皮膚の老化は、「生理学的老化」と「光老化」に分けて考えることができます。生理学的老化というのは、細胞自体の老化を原因とします。皮膚を構成するタンパク質を合成・分泌する細胞自体が老化することにより、タンパク合成がタンパク分解を下回り皮膚組織が老化することです。光老化というのは、紫外線のエネルギーによって皮膚組織内で様々な反応が起き、その結果起こる皮膚の老化です。これら2つのうち、光老化のほうが皮膚老化に大きく影響していると考えられています。
例えば、普段太陽光が当たらないお腹の皮膚と太陽光に晒されている顔や手の皮膚の皺形成具合を比較すれば、そのことが直感的に理解できるのではないでしょうか。
皺が出来るのが嫌な人は紫外線に当たらないようにするという考えは正解と言えます。

では、何故、紫外線に当たると皺が出来るのでしょうか?いろいろ複雑な理由はあるのですが、一番特徴的な現象としては、皮膚に紫外線が当たると皮膚直下の血管増殖が見られます。

皮膚は大きく分けて3層構造からなり、外側から表皮、真皮、皮下組織と呼ばれています。紫外線照射により真皮で血管増殖が起こるわけです。その血管を通り真皮に好中球が侵潤してきます。好中球は皮膚の構成成分であるエラスチンやコラーゲンを分解するエラスターゼやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)と呼ばれるタンパクを分泌します。そのため、真皮や、表皮と真皮の間にある基底膜等が分解され、皺が出来る原因の1つになると考えられています。
ということは、紫外線が当たっても皮膚の血管増殖が起こらなければ皺が出来ないとも考えられます。血管増殖を負に制御する因子としてTSP-1というタンパクが知られていますが、実際にこれを皮膚で過剰発現させたマウスでは紫外線を照射しても皺がほとんど形成されないことがYanoらによって報告されています。

我々は、この紫外線による血管増殖を防ぐ方法が他にないか検討しています。そこで目をつけたのが、HIF-1αというタンパクです。
簡単に言うと、これは血管増殖を促す因子で、紫外線照射によって皮膚組織内で増加することが分かっています。また、低酸素環境で安定、通常酸素環境で不安定(分解されやすい)という性質があります。
そこで、紫外線照射の後に生体を高酸素環境に暴露すれば、HIF-1αが不安定になり血管増殖が抑制され、皺形成も抑制されるのではないかと考えました。この仮説をマウスを用いて試したところ、皺形成を完全に抑制することは出来ませんでしたが、紫外線照射のみで何のケアもしなかったマウスと比べ、有意に皺形成の程度を抑えることが出来ました。

このことから、紫外線によるHIF-1α発現の増強効果を、高酸素による抑制効果が上回る条件であれば、皺形成を非侵襲的に抑制できる可能性があります。


とはいえ、日中は部屋に引きこもる、外出するのは夜中だけという生活が可能な方は、そちらの方が断然皺形成抑制効果が大きいのは間違いありません。

参考文献
Yano K et al. J Invest Dermatol 118: 800-805, 2002.
Kawada S et al. Am J Physiol-Regul Integr Comp Physiol (in press).


タグ:Kawada
posted by fifss at 12:43| Comment(0) | 可塑性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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