2011年01月23日

グローバルソーシングと世界標準の業務プロセス

オープンイノベーション担当の三橋です。

オープンイノベーションについて目立った記事として、昨年の7月に『GEの変身「募るアイデア 賞金は2億ドル!」』、今年の1月12日には『生活用品開発へ研究成果交換、「自前」改め期間短く』の2件の記事が日本経済新聞に掲載されていたことが記憶に新しい。

海外でEli LillyやP&Gのような製薬メーカー、消費材メーカーが先進的に取り組み始めた研究•商品開発のオープン化が、業種や国境を越え、ここ最近では、GEやP&Gの日本法人や内資系の帝人や日立、大阪ガスなどのような企業もオープンイノベーションに取り組みはじめた、という記事だ。

先日1月9日の小川研究員の記事『基礎研究の役割とコラボレーションの重要性』には、発想の枠組みを広げるため、他分野との関わりの重要性について書かれていたが、垣根を越えたコミュニケーションというのは本当に有意だ。

さて、ここでさらに重要なのは、こうした「オープンイノベーション」というコンセプトが大事である、ということではなく、
1)コンセプトを実行に移すことができるかどうか、
2)その「オープンイノベーションを実行に移せること」を、組織や個人のコア•コンピタンスとして活用できるかどうか、ではないか。

一般的には、他分野と対話をし、共同で開発を行うことは「サブ的な取り組み」として行われることが多い。「外に目を向けて何か見つかったら儲けもんだ」という程度の扱いで、エネルギーをフルに活用することはない。多くの企業も、「オープンイノベーション室」を開設したが、およそ人数も少なく、「お試し期間」の最中である。米P&G社の記事のエッセンスは、オープンイノベーションを活用した商品開発の取り組みが全体の3分の2を超えている点で、取り組みが企業のコアな手法となっている点だ。自前を優先すること自体を捨てる必要性はないが、自前を捨てることで、切り開ける道があることを、P&Gの活動は証明している。

経営戦略の世界でよく言われることは「戦略とは、捨てることである」という言葉がある。失敗する企業の多くが経験するのが、「古い戦略変数を捨てきれず、間をとって、中途半端な経営戦略をとってしまう」方法だ。ギアを入れ替えるときは、勇気を持って入れ替えることが大事だ。

さて、このオープンイノベーションの議論で、日本経済新聞の記事が言及していないもう1つの大きな点ポイントとして、「インターネット」の活用と「世界標準の業務プロセスを採用する点」の重要性だ。

研究開発をオープン化したい場合、どうすればいいのか?

いまのところ、まず行うべきことは、
1)インターネットでアイディアやパートナーを募集する、
2)知財や費用/利益配分、開発形態について役割分担や参加方法を取り決めること、
である。

前者の「知の協力者」を探索する場合は、インターネットを積極活用し、可能な限り広い範囲でグローバル•ソーシングを行い(スプレッド)、後者の開発形態や権利の取り決めは、世界的に受け入れられる基準やフォーマット、言語を採用することで業務プロセスを共通化し、集めた「知の協力者」を逃がさない(グリップ)ことが、オープン化を行う組織にとって大事である。

但し、難点は、この2点は、日本人にとって苦手な仕事である点だ。語学が不得意で、他民族とのコミュニケーションに慣れていない。また、独自の企業文化を強調し過ぎるために、世界標準に合わせる能力にも乏しい。ではどうするか。日本人だから「日本人らしいオープンイノベーションをやればいいじゃないですか」というアプローチは、もはや、時代遅れだと思う。頑張って、自分を変えるしかない。乗り切るしかない。これだけの人材と資本に日本にあり、我々にできないわけがない。わがままを捨て、世界の流れに合わせるべきだ。

研究開発の仲間作りは意外にも難しいが、FIfSSは既にその第一歩を踏み出し、いよいよ他分野へのオープン化を間近に控えている。中国、先端医療と活動範囲を広げる早稲田大学のネットワークを活かし、インターネットをさらに積極活用し、より間口を広げ、世界的な世の中の流れに乗っていく使命を持っている。

客員研究員
三橋拓樹
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2010年07月19日

経営戦略のオープンイノベーション

 オープンイノベーションの要素の1つに、インターネットや社内の人的ネットワーク等を活用し、社外に知識を求める、global sourcing(グローバルソーシング)という考え方がある。最近、技術開発を中心としたサイエンスの世界に限らず、マネジメントの世界でも、Global Sourcingが注目されているそうだ。

 世界的な企業の経営戦略のアドバイスを行うマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)は、今年に入り、80年の歴史の中で初めてとなるジョイントベンチャー「NMインサイト」を立ち上げ、企業の経営陣に対し、ソーシャルメディアの活用方法や活用結果の効果測定などの助言やサービスを行うようだ。世界的な市場調査会社であるニールセン社が消費者のデータを集め、マッキンゼーがデータ分析やそれに基づくトレンド予測や経営の意思決定に必要な指標づくりなどを行うのだろう。メディアとしてまだ歴史が浅いソーシャルメディアが、予想を超えるスピードで成長し、企業経営の判断にまで影響を及ぼすようになってきたことで、NMインサイトは、ユーザの行動や経験を、ダイレクトに企業経営陣に伝えるサービスを行う。先日、「iPadで思うOpen Innovation」で記述した通り、これからの企業はユーザとの距離を縮めることが大事であり、特にソーシャルメディアのようなユーザの経験が企業の理解を越えるものの場合、企業や開発者は、より、神経質にウォッチしていかなければならない。

http://www.nmincite.com/ (NMインサイトのWebsite)
http://www.businesswire.com/news/home/20100615007377/ja/ (NMインサイトの報道記事)

 さて、そのマッキンゼーが、さらに、Global Sourcingの視点を取り入れ、本業のコンサルティングサービスを補強するそうだ。上記のNMインサイトとアプローチは似ているが、世界中の企業のCEOやCSO(Chief Strategic Officer)に必要な経営情報(例えば、各国のマクロ経済の指標や業界ごとの先行き見通し(outlook))をインターネット・ポータルサイトを通じて提供し、且つ、専門的な意見については、マッキンゼーのネットワークを駆使し、その世界の第一人者と契約し、アドバイス先企業に紹介するというのだ。この考え方は、オープンイノベーションのGlobal Sourcingによく似ている。P&Gがプリングルスに印字する方法を世界中のリソースを駆使して探していた際、イタリアのボローニャのパン屋にある機材を発見したように、マッキンゼーは、これまでコアとなる経営アドバイスを、外部に頼ることも、経営アドバイスサービスの1つと位置づけたのだ。

 情報が簡単に入手できる世の中になり、付加価値を出していくためには、より専門的で、ごく一部の人間しか持ち得ない知識を持つ超専門家を組織して、顧客や潜在顧客にそのネットワークのマッチングや情報提供を行う必要がある。世界最高峰のマッキンゼーは、どの経営コンサルティング会社よりも先行して、この取り組みを始めている。

 世界的な戦略系コンサルティング会社には、私の前職の母体であったボストンコンサルティンググループをはじめ、ATカーニー、ブーズアンドカンパニーといった会社が存在するが、ATカーニーとブーズは合併が噂され、規模の小さい企業はより分野に特化し、アドバイスだけではなく、人材派遣のようなこともして、生き残りに必死だ。それだけ、企業戦略のアドバイスビジネスというのが、専門的なレベルに達し、プロジェクトベースでしか業界知識を蓄積しない中途半端な専門家では対応しきれなくなったということだ。

 アメリカは企業内の経営プロセスについて、常に最新のプロセスを導入し、早速試みる傾向がある。リスクを恐れ、現状維持に甘んずる日本企業とは対照的だ。そうしたことで、アメリカのリーディング・カンパニーが、積極的に、外の能力の囲い込み、取り込みを取り入れ、フレキシブルに組織や経営プロセスの在り方を変えていることは、次の時代の経営戦略のヒントとなる。ベンチマークトとなるのは、GEやJ&J、スリーエムというグローバル企業だ。

 ビジネススクールで、オープンイノベーションの議論をしていた際、1つの論点となっていたのは、”「技術」のGlobal Sourcingは成立するが、「経営」関連のGlobal Sourcingは成立しないのではないか”、ということであった。マッキンゼーの挑戦の成果は、近いうち、この質問に対する答えを導くこととなるだろう。

 三橋拓樹 hiroki Mitsuhashi TwitterID : micchan (7月19日記)
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2010年07月18日

「iPad」で思うオープンイノベーション


 先日、日本でiPadとiPhone4を購入した。全米で最強のベンチャーキャピタリストといわるJon Doerr(クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ)は、iPadの登場を、革命的な出来事と言っている(以下の引用文参照)。マウスを使い、それまでの生活習慣とは異なる操作方法を行う、極めて機械的(非人間的)だったパソコン時代から、感覚的に操作が可能なタッチパネルで行うiPad時代になるというのだ。私もiPad を初めて手に取った時、身震いがするくらいの衝撃を覚えた。中学生の頃にアップル Macintosh LCが家にきた時の感動や、高校生の時に初めてインターネットに出会った時と同じくらい、胸が高鳴った。

John Doerrのインタビュー動画

----引用----
On Saturday (April 3) the iPad arrived. We believe it will rule the world. 
I've touched it, held it, and caressed it. It feels gorgeous. 
It feels like touching the future. It is not a big iPod. But it IS a very big deal.
We're going from the Old World to a brave New World.


* From the Old World of the traditional, tired window interfaces... to the wonderful new world of TOUCH.
* From the Old World of Point and Click to the new SWOOSH of Fluidity.

* Instead of old, artificial, indirect interfaces, the iPad is direct and NATURAL.

* Instead of WYSIWyg - what you see is what you get - it is WYTIWis. What You Touch... IS what IS.

* Instead of holding a MOUSE, you're holding MAGIC.
----引用----

 アメリカのビジネススクールで、イノベーション関連の授業で頻繁に登場するキーワードの1つで、disruptive technology(破壊的技術)という言葉がある。直訳すると、「破壊的技術」であるが、従来の市場では必要な性能を持たないために受け入れられないが、新しい顧客に対して、新しい価値をもたらす新製品を生み出すような技術のことのことで、ハードディスク、デジタルカメラ、PCなどが代表的な例として証明された理論である。例えば、デジタルカメラが登場したことで、フィルムカメラとのシェアが年月をかけて、反比例し、主役が入れ替わる、といった事例などがそうだ。Jon Doerrが「時代を変える技術」とiPadを評価しているのは、こうした観点からも、パソコン時代の終焉を予測しているのではないかと思う。

 携帯電話でインターネットが出来る点に注視すれば、NTTドコモのiモードがiPhoneなどの米国発のスマートフォンをはるかに先行していたわけだが、タッチパネル技術を採用し、パソコンと携帯の間にポジションに狙って開発したのが、現在の爆発的な人気を生んだ理由だろう。iPhoneやiPadは、既に、パソコンと携帯電話業界において「disruptive」な存在となっている。今後の動向が楽しみだ。

 さて、このiPadやiPhoneの爆発的人気を生み出したApple社の戦略について疑問を呈する意見も多い。それは、インターネットの普及が、開発・運営企業の「Open」なプラットフォーム作り、クロス・ライセンスがベースに行われたのに対し、Appleの戦略は、「Closed」な技術開放、プラットフォーム管理をしている点である。Appleの技術やインターフェースを守るため、同社は、同社の戦略を侵害し得る技術やサービスに対し、数々の訴訟を起し、自社の所有物であるプラットフォームと開発技術、コンテンツをプロテクトしている。最近、村上龍が出版社を介さず直接iPad出版に挑戦したことが話題となっているが、彼の作品さえ、Appleからの承認を得ないと同社のプラットフォームで公式に解放できないのである。i-Modeが公式サイト、ということでコンテンツ課金を成功させた事例を参考にしているのだろうか。反論者は、そうしたAppleの戦略は、iPadによって花開く電子書籍・ニュープラットフォームの成長に限界点を設定すると訴えている。はたしてそうだろうか。

 過去10年以上もの間、商品開発の主役は、徐々に技術そのものより利用者であるユーザに移行している。私がコンサルティング会社にいたとき、最もクライアント側が喜んだのは、ユーザの生の声を拾い、ビジネスの視点とマーケットの数字を併せて分析したことだった。現在は、ユーザが直接、開発者側に意見を出すことが出来、コンサルタントが登場する間もなく、意見収集することができる。iPhoneやiPadは、開発メーカー側がユーザに何が出来るか、何をするべきか、ということを特別指定することなく、ハコを与えることで、あとはユーザが勝手に使い方を見つけていく、という方針を取っている。iPadやiPhoneを購入すると、説明書がほとんどないことがその象徴だ。User Experienceを重視し、利用ユーザが見出した新しい使い方に合うソフトウェアやハードウェアを開発していく方針を取っているそうだ。技術が可能なレベルと、ユーザが求めるレベルがマッチする商品を開発するというのだ。このことが実現するためには、Appleが、ユーザとの間で、高度の信頼関係をいかに維持し続けるか、ということがポイントとなるだろう。

 アイディアを持った人と、アイディアを形にすることができる人とのマッチングは、以前紹介したNineSigmaやInnoCentiveのように、オープンイノベーションを仲介する企業が行う場合もあれば、直接行われる場合もある。ユーザの求めていることを正確に把握し、ビジネスプランニングや商品・サービスデザインができれば、オープンイノベーションの真髄である、技術のインソースを世界中のユーザに頼れば、既存の枠では考えられなかった、「Disruptive Innovation」が起こるのではないか。

 「技術の専門知識を持ちえていない素人ユーザに、破壊的な技術なんか生み出せるはずがない」と考えるのは一般的だ。しかし、お金を支払うのはユーザである。そのユーザの知識や経験は、破壊的な技術を生み出すためには無視できない存在だ。開発現場こそ、マーケティング機能が必要というのは、こうした背景があるからだ。

 翻って、私たちスポーツ科学未来研究所は、開発側とユーザ側、どちらに近い立場に立つべきか。企業から見たら、私たちは、技術のインソースの対象者「A」である。しかし、これでは、ユーザとの距離が遠く、イノベーションの立役者であるユーザの感覚とズレが生じ、企業は注目を失う。思い切って、「B」という立場は取れないのだろうか。そうすれば、企業は同じ方向を向いて、技術開発が出来る。ちょっと無理がある発想かもしれないが、少なくとも、そうした視点を持って、組織のインターフェースをデザインしていかなければならない。



早稲田1.jpg




 三橋拓樹 rocky mitsuhashi Twitter ID : micchan(7月17日記)
posted by fifss at 14:08| Comment(0) | オープンイノベーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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